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$ \varphi(x)=x$ ($ x\in\R^n$) とするとき、 $ \varphi'(x)=I$ であることを示せ。

(解法1) 一般に「$ f(x)=Ax+b$ ならば $ f'(x)=A$」であるから、 $ \varphi(x)=x=I x+0$ より、 $ \varphi'(x)=I$.

(解法2) $ \varphi=\begin{pmatrix}\varphi_1\ \vdots\ \varphi_n\end{pmatrix}$ とおくと、 $ \varphi_i(x)=x_i$ ( $ i=1,\dots,n$).

$\displaystyle \frac{\rd \varphi_i}{\rd x_j}(x)=\frac{\rd}{\rd x_j}x_i
=\left\{
\begin{array}{ll}
1 & \mbox{($i=j$)}\\
0 & \mbox{($i\ne j$)}
\end{array}\right.
$

であるから、 $ \varphi'(x)=\left(\delta_{ij}\right)=I$. $ \qedsymbol$

上の定理では微分可能な逆関数の存在を仮定しているが、 実は $ \det\varphi'(a)\ne 0$ という条件が成り立てば、 局所的な逆関数の存在が導かれるという、 逆関数定理がある。 それはこの講義科目の終盤に解説する予定である。 次の例で、 逆関数の微分法を使って $ \left(\varphi^{-1}\right)'$ を計算しているが、 微分可能性を証明するには、本当は逆関数の定理のお世話になる必要があるだろう。


\begin{jexample}[極座標変換の逆変換のヤコビ行列 (とても重要)]
$\varphi\colon(0,...
...a}{r},\quad
\theta_y=\frac{\cos\theta}{r}. \qed
\end{displaymath}\end{jexample}

(以下はやや脱線 -- 無視してよろしい) この結果を逆関数の微分法を使わずに求めてみよう。 $ r=\sqrt{x^2+y^2}$ であるから、$ r_x$$ r_y$ は比較的簡単に得られる。

    $\displaystyle r_x$ $\displaystyle =\frac{\rd}{\rd x}\left(x^2+y^2\right)^{1/2} =\frac{1}{2}\left(x^2+y^2\right)^{-1/2}\cdot\frac{\rd}{\rd x}(x^2+y^2) =\frac{x}{\sqrt{x^2+y^2}},$
    $\displaystyle r_y$ $\displaystyle =\frac{\rd}{\rd y}\left(x^2+y^2\right)^{1/2} =\frac{1}{2}\left(x^2+y^2\right)^{-1/2}\cdot\frac{\rd}{\rd y}(x^2+y^2) =\frac{y}{\sqrt{x^2+y^2}}.$

これらがそれぞれ $ \cos\theta$, $ \sin\theta$ に等しいことは容易に分かる 4$ \theta$ の導関数の方は少し難しい。割と多くのテキストに

$\displaystyle \theta=\tan^{-1}\dfrac{y}{x}
$

と書かれているが5、 これは $ \pmod \pi$ でしか正しくない式である。 本当は、 $ \tan^{-1}\dfrac{y}{x}$ が主値 ( $ (-\pi/2,\pi/2)$ 内の値) を意味するとして、

$\displaystyle \theta=
\left\{
\begin{array}{ll}
\tan^{-1}\dfrac{y}{x} & \mbox{(...
...0$)} [1.6ex]
\dfrac{3\pi}{2} & \mbox{($x=0$ かつ $y<0$)}
\end{array}\right.
$

となるはずである。

      $\displaystyle \frac{\rd}{\rd x}\tan^{-1}\frac{y}{x} =\frac{1}{1+(y/x)^2}\frac{\...
...right) =\frac{1}{1+(y/x)^2}\cdot\left(-\frac{y}{x^2}\right)=-\frac{y}{x^2+y^2},$
      $\displaystyle \frac{\rd}{\rd y}\tan^{-1}\frac{y}{x} =\frac{1}{1+(y/x)^2}\frac{\...
...\left(\frac{y}{x}\right) =\frac{1}{1+(y/x)^2}\cdot\frac{1}{x}=\frac{x}{x^2+y^2}$

であることから、

$\displaystyle \theta_x=-\frac{y}{x^2+y^2},\quad
\theta_y=\frac{x}{x^2+y^2}
$

が導けるが、 少々面倒である (例えば $ y$ 軸上でどうすれば良いか分かりますか?)。 これがそれぞれ $ -\dfrac{\sin\theta}{r}$, $ \dfrac{\cos\theta}{r}$ に等しいことは容易に確められる。 $ \qedsymbol$

ARRAY(0x1018ae4)ARRAY(0x1018ae4)


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Masashi Katsurada
平成23年6月13日