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全微分可能な関数の性質

前回、次の定理を紹介したが、証明はまだ与えていなかった。


\begin{jtheorem}[全微分可能ならば、連続かつすべての変数について偏微分可能]
$\Om...
...frac{\rd f_i}{\rd x_j}(a)\right).
\end{displaymath}\end{enumerate}\end{jtheorem}

Proof. $ f$$ a$ で全微分可能であるから、 $ \exists A\in M(m,n;\R)$ s.t.

($ \sharp$) $\displaystyle \lim_{h\to 0}\frac{ f( a+ h)- f( a)-A h} {\left\Vert h\right\Vert}= 0.$

(1)
$ h\to 0$ のとき、 $ \left\Vert A h\right\Vert\le\left\Vert A\right\Vert \left\Vert h\right\Vert\to 0$ であるから、 $ \left\Vert A h\right\Vert\to 0$ であることに注意しておく。

$\displaystyle f(a+h)-f(a)=f(a+h)-f(a)-A h+A h
=\left\Vert h\right\Vert\frac{f(a+h)-f(a)-A h}{\left\Vert h\right\Vert}+A h
$

であるから、$ h\to 0$ のとき、

    $\displaystyle \left\Vert f(a+h)-f(a) \right\Vert$ $\displaystyle =\left\Vert \left\Vert h\right\Vert\frac{f(a+h)-f(a)-A h}{\left\Vert h\right\Vert}+A h \right\Vert$
      $\displaystyle \le \left\Vert h\right\Vert \frac{\left\Vert f(a+h)-f(a)-A h\right\Vert}{\left\Vert h\right\Vert} +\left\Vert A h\right\Vert \to 0\cdot 0+0=0.$

ゆえに

$\displaystyle \lim_{h\to 0}f(a+h)=f(a).
$

すなわち $ f$$ a$ で連続である。
(2)
突然だが、ベクトルを表す文字の上に $ \vec{}$ を書くことにする。 $ \vec f=\begin{pmatrix}f_1\ \vdots\ f_m\end{pmatrix}$, $ A=(a_{ij})$, $ \vec h=\begin{pmatrix}h_1\ \vdots \\
h_n\end{pmatrix}$ とおくと

(再掲 $ \sharp$) $\displaystyle \lim_{\vec h\to \vec 0}\frac{\vec f(\vec a+\vec h)-\vec f(\vec a)-A\vec h} {\left\Vert\vec h\right\Vert}=\vec 0.$

において、第 $ i$ 成分は、

$\displaystyle \lim_{\vec h\to\vec 0}\frac{f_i(a+h)-f_i(a)-\dsp\sum_{k=1}^n a_{ik}h_k}
{\left\Vert\vec h\right\Vert}=0.
$

$ j\in\{1,\dots,n\}$ に対して、 $ \vec h=h\vec e_j$ とすると、

$\displaystyle \lim_{h\to 0}\frac{f_i(a+h)-f_i(a)-\sum_{k=1}^n a_{ik}\cdot h\delta_{kj}}
{\vert h\vert}=0.
$

これから

$\displaystyle \lim_{h\to 0}\frac{f_i(a+h)-f_i(a)}{h}=a_{ij}.
$

ゆえに $ f$$ a$ で変数 $ x_j$ につき偏微分可能で、

$\displaystyle \frac{\rd f}{\rd x_j}(a)=a_{ij}.
$

ゆえに

$\displaystyle f'(a)=A=\left(a_{ij}\right)=\left(\frac{\rd f_i}{\rd x_j}(a)\right). \qed
$

$ \qedsymbol$

この定理によって、 $ f$ が全微分可能であるとき、 その全微分係数は偏微分することで求められることが分かった。 偏微分は本質的に1変数関数の世界の話であるから、簡単に実行できることが多い。

与えられた関数が全微分であることがどうしたら分かるか?というのが問題になるが、 これについては次の定理が有用である。


\begin{jtheorem}[$C^1$級ならば全微分可能]
$\Omega$ は $\R^n$ の開集合、
$f\co...
... は $C^1$ 級とするとき、
$f$ は $\Omega$ で全微分可能である。
\end{jtheorem}

Proof. $ f=\begin{pmatrix}f_1\ \vdots\ f_m \end{pmatrix}$ とおくとき、

    $ f$$ C^1$$\displaystyle \quad$ $\displaystyle \Iff$   $ f_i$$ C^1$ 級 ( $ i=1,\dots,m$)
    $ f$ が全微分可能$\displaystyle \quad$ $\displaystyle \Iff$   $ f_i$ が全微分可能 ( $ i=1,\dots,m$)

であるから、$ m=1$ として証明すれば良い。

$ \Omega$ が開集合であるから、 $ \exists\eps>0$ s.t. $ B(a;\eps)\subset\Omega.$ 任意の $ h\in\R^n$, $ 0<\left\Vert h\right\Vert<\eps$ に対して、

    $\displaystyle f(a+h)-f(a)$ $\displaystyle =f(a_1+h_1,a_2+h_2,\dots,a_n+h_n)-f(a_1,a_2,\dots,a_n)$
      $\displaystyle =f(a_1+h_1,a_2+h_2,\dots,a_n+h_n)-f(a_1,a_2+h_2,\dots,a_n+h_n)$
      $\displaystyle \quad+f(a_1,a_2+h_2,a_3+h_3\dots,a_n+h_n)-f(a_1,a_2,a_3+h_3,\dots,a_n+h_n)$
      $\displaystyle \quad+f(a_1,a_2,a_3+h_3,\dots,a_n+h_n)-f(a_1,a_2,a_3,a_4+h_4,\dots,a_n+h_n)$
      $\displaystyle \qquad\qquad\qquad\qquad\vdots\qquad\qquad\qquad\qquad \vdots$
      $\displaystyle \quad+f(a_1,a_2,\dots,a_{n-1},a_n+h_n)-f(a_1,a_2,\dots,a_{n-1},a_n).$

平均値の定理より、 $ \exists\theta_1,\theta_2,\dots,\theta_n\in(0,1)$ s.t.

$\displaystyle f(a+h)-f(a)=\sum_{j=1}^n
\frac{\rd f}{\rd x_j}(a_1,\dots,a_{j-1},a_j+\theta_jh_j,a_{j+1}+h_{j+1},\dots,a_n+h_n)h_j.
$

ゆえに

$\displaystyle f(a+h)-f(a)-\sum_{j=1}^n\frac{\rd f}{\rd x_j}(a)h_j
=\sum_{j=1}^n \eps_j(h)h_j.
$

ただし、

$\displaystyle \eps_j(h):=\frac{\rd f}{\rd x_j}
(a_1,\dots,a_{j-1},a_j+\theta_jh_j,a_{j+1}+h_{j+1},\dots,a_n+h_n)
-\frac{\rd f}{\rd x_j}(a)$   $\displaystyle \mbox{($j=1,\dots,n$)}$$\displaystyle .
$

$ h\to 0$ のとき

$\displaystyle \left\Vert
(a_1,\dots,a_{j-1},a_j+\theta_jh_j,a_{j+1}+h_{j+1},\dots,a_n+h_n)-a
\right\Vert^2
\le\sum_{j=1}^n h_j^2=\left\Vert h\right\Vert^2\to 0
$

であることと、 $ f$$ C^1$ 級であると仮定したので $ \dfrac{\rd f}{\rd x_j}$ は連続であることから、

$\displaystyle \eps_j(h)\to 0.
$

ゆえに、三角不等式と、 $ \vert h_j\vert\le\Vert h\Vert$ ( $ j=1,\dots,n$) であることを用いると、

$\displaystyle \frac{ \left\vert\dsp\sum_{j=1}^n\eps_j(h)h_j \right\vert}
{\left...
...\left\Vert h\right\Vert}
\le\dsp\sum_{j=1}^n\left\vert\eps_j(h)\right\vert\to 0$   $\displaystyle \mbox{($h\to 0$)}$$\displaystyle .
$

ゆえに

$\displaystyle \frac{f(a+h)-f(a)-\dsp\sum_{j=1}^n\frac{\rd f}{\rd x_j}(a)h_j}{\Vert h\Vert}
=\frac{\dsp\sum_{j=1}^n\eps_j(h)h_j}{\left\Vert h\right\Vert}\to 0$   $\displaystyle \mbox{($h\to 0$)}$$\displaystyle .
$

これは $ f$$ a$ で全微分可能であることを示している。 $ \qedsymbol$ ARRAY(0xf8a5a4) $ \qedsymbol$

この定理の仮定は、$ f$$ C^1$ 級であることとしたが、 $ f$ がすべての1階偏導関数を持ち、 それらが連続であることしか上の証明では用いていない。 つまり $ f$ の連続性は用いていないが、全微分可能であることが示されたので、 定理 0.1 によって、 $ f$ は連続である。 ゆえに次のことが分かった。

\begin{jcorollary}
$f$ が $C^1$ 級であるためには、
$f$ がすべての変数 $x_j$\...
...、
$\dfrac{\rd f}{\rd x_j}$ が連続であることが必要十分である。
\end{jcorollary}

これから、関数の1階偏導関数をすべて求めて (これは容易な場合が多い)、 それらが連続関数であることが確められれば、 その関数が全微分可能であることが分かる。 これは与えられた関数が全微分可能であることの強力な確認手段である。


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Masashi Katsurada
平成23年6月2日