next up previous
Next: 2.4 split Cholesky 分解を用いる方法 Up: 2 標準固有値問題への帰着 Previous: 2.2 が正則な場合に使える、ある素朴な方法

2.3 $B$ が正定値である場合にその Cholesky 分解を用いる方法

(この項の要点は式番号をふった式にある。)


$B$ が正定値 (実対称で固有値がすべて正) である場合、Cholesky 分解

(2) \begin{displaymath}
B=U^T U
\end{displaymath}

を代入して ($U$ は正則な上三角行列であり、 特に対角成分が正であるものを選ぶことができ、その場合は一意的に決定される)

\begin{displaymath}
A x=U^T U x.
\end{displaymath}

両辺に $\left(U^T\right)^{-1}$ をかけると

\begin{displaymath}
\left(U^T\right)^{-1} A x =U x.
\end{displaymath}


\begin{jlemma}\upshape
$P$ が正則であるとき、
$\left(P^T\right)^{-1}=...
...
特に正則な対称行列の逆行列は対称行列である。
\end{jlemma}

\begin{proof}
$Q:=P^{-1}$ とすると、
$P Q=I$. これから $Q^T P^T=(PQ)^T=I^T=I$.
ゆえに $\left(P^T\right)^{-1}=Q^T=(P^{-1})^T$. \qed
\end{proof}

なお、 $\left(P^T\right)^{-1}$ のことをしばしば $P^{-T}$ と書く人が多い (個人的には悪趣味だと感じているが)。

そこで

(3) \begin{displaymath}
A':= (U^{-1})^T A U^{-1},\quad y:=U x
\end{displaymath}

とおくと明らかに
(4)     $\displaystyle A x=\lambda B x\quad\LongIff \quad A' y=\lambda y,$
(5)     $\displaystyle x=0 \quad\LongIff\quad y=0.$

$A$ が実対称であれば、 $A'$ も実対称である。 これは次の補題から分かる。

\begin{jlemma}\upshape
$P$ が $n$ 次対称行列であるとき、
任意...
...正方行列 $Q$ について $P':=Q^T P Q$ は対称である。
\end{jlemma}

\begin{proof}
\begin{displaymath}
(P')^T=(Q^T P Q)^T=Q^T P^T (Q^T)^T=Q^T P Q=P'.\qed
\end{displaymath}\end{proof}


\begin{jlemma}
$A$, $B$ は実対称行列で、
$B$ は正定値、$B=U U^T$...
...lambda I-B^{-1}A)
\quad\mbox{($\lambda\in\C$)}.
\end{displaymath}
\end{jlemma}

\begin{proof}
\begin{eqnarray*}
\det(\lambda I-A')
&=&\det(\lambda U U^{-1}-(U...
...bda I-(U^T U)^{-1}A)
= \det(\lambda I-B^{-1}A). \qed
\end{eqnarray*}\end{proof}

ここまでをまとめておこう。


\begin{jtheorem}[対称な一般化固有値問題のコレスキー分解に基...
...Ux,Uy)\quad\mbox{($x,y\in\R^n$)}.
\end{displaymath}\end{enumerate}\end{jtheorem}

\begin{proof}
(1), (2) と (3) の前半は済んでいる。
(3) の後半に...
...\rangle
=(U u_i,U u_j)=(v_i,v_j)=\delta_{ij}. \qed
\end{displaymath}\end{proof}

さて、実対称行列 $A'$ の標準固有値問題については、 Rayleigh 商

\begin{displaymath}
\frac{(A'y,y)}{(y,y)}
=\frac{y^T A' y}{y^T y}
\end{displaymath}

が重要な役目を果たすが、 これについては次の補題が成り立つ。

\begin{jlemma}
$A$, $B$ が $n$ 次実対称行列で、$B$ は正定値で...
...x)}{(B x,x)}
=\frac{(A' y,y)}{(y,y)},\quad
y:= U x.
\end{equation}\end{jlemma}

\begin{proof}
最初に $x\ne 0$ $\Iff$ $y\ne 0$ であることを注意し...
...T A U^{-1}y,y)}{(y,y)}
=\frac{(A'y,y)}{(y,y)}.\qed
\end{displaymath}\end{proof}


\begin{jcorollary}
$A$, $B$ が $n$ 次実対称行列で、$B$ は正定値...
...ての $k$ 次元部分空間を走ることを意味する。
\end{jcorollary}


\begin{jremark}[数値計算する上での注意]
ただし、
$A$, $B$ が...
...夫が有用である。
後述の Lanczos 法の節を見よ。
\end{jremark}


next up previous
Next: 2.4 split Cholesky 分解を用いる方法 Up: 2 標準固有値問題への帰着 Previous: 2.2 が正則な場合に使える、ある素朴な方法
桂田 祐史
2014-05-27