2.4 直交性


\begin{jdefinition}[直交]
$(\cdot,\cdot)$\ を $\R^n$\ の Euclid 内積と...
...これを $M$\ の\textbf{直交}と呼ぶ。
\end{enumerate}\end{jdefinition}

以下、定義から簡単にチェックできる性質をあげる。


\begin{jproposition}
$(\cdot,\cdot)$\ を $\R^n$\ の Euclid 内積、
また $...
...set \R^n$\ に対して $M\cap M^\perp=\{0\}$.
\end{enumerate}\end{jproposition}

(1)
内積の対称性 $ (x,y)=(y,x)$ から明らか。
(2)
一般に
  $\displaystyle \Vert x+y\Vert^2$ $\displaystyle =$ $\displaystyle (x+y,x+y)=(x,x+y)+(y,x+y)$
    $\displaystyle =$ $\displaystyle (x,x)+(x,y)+(y,x)+(y,y)$
    $\displaystyle =$ $\displaystyle \Vert x\Vert^2+2(x,y)+\Vert y\Vert^2$

が成り立つので、

$\displaystyle (x,y)=0\quad\Iff\quad \Vert x+y\Vert^2=\Vert x\Vert^2+\Vert y\Vert^2.
$

(3)
単なる計算である。
  $\displaystyle \Vert x+y\Vert^2+\Vert x-y\Vert^2$ $\displaystyle =$ $\displaystyle (x+y,x+y)+(x-y,x-y)$
    $\displaystyle =$ $\displaystyle \left[(x,x)+(x,y)+(y,x)+(y,y)\right]
+\left[(x,x)-(x,y)-(y,x)+(y,y)\right]$
    $\displaystyle =$ $\displaystyle 2\left[(x,x)+(y,y)\right]
=2(\Vert x\Vert^2+\Vert y\Vert^2).$

(4)
これも単なる計算である。
  $\displaystyle \frac{1}{4}\left(\Vert x+y\Vert^2-\Vert x-y\Vert^2\right)$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac{1}{4}
\left\{
\left[(x,x)+(x,y)+(y,x)+(y,y)\right]
-\left[(x,x)-(x,y)-(y,x)+(y,y)\right]
\right\}$
    $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac{1}{2}\left[(x,y)+(y,x)\right]
=(x,y).$

(5)
$ \forall x\in\R^n$ に対して $ (x,0)=0$ , すなわち $ x\perp 0$ であるから $ x\in\{0\}^\perp$ . ゆえに $ \R^n\subset\{0\}^\perp$ . 逆向きの包含関係は 明らかだから $ \{0\}^\perp=\R^n$ . 一方、 $ x\in(\R^n)^\perp$ とすると、$ x$ は自分自身とも直交する: $ (x,x)=0$ . ゆえに $ x=0$ . よって $ (\R^n)^\perp=\{0\}$ .
(6)
$ x,y\in M^\perp$ とすると、 $ \forall z\in M$ に対して、

$\displaystyle (x,z)=(y,z)=0.
$

このとき $ \forall \lambda,\mu\in\R$ に対して、

$\displaystyle (\lambda x+\mu y,z)=\lambda(x,z)+\mu(y,z)=\lambda\cdot 0+\mu\cdot 0=0.
$

すなわち $ \lambda x+\mu y\in M^\perp$ . ゆえに $ M^\perp$ は線型部分空間である。
(7)
明らか。
(8)
$ x\in M$ とすると、 $ \forall y\in M^\perp$ に対して $ (x,y)=0$ . これから $ x\in (M^\perp)^\perp$ . ゆえに $ M\subset (M^\perp)^\perp$ .
(9)
$ x\in M\cap M^\perp$ とすると、$ x$ は自分自身とも直交する: $ (x,x)=0$ . ゆえに $ x=0$ . よって $ M\cap M^\perp\subset\{0\}$ . 逆向きの包含関係は明らかだから $ M\cap M^\perp=\{0\}$ . $ \qedsymbol$

$ M\subset \R^n$ の直交については、 $ M$ $ \R^n$ の線型部分空間 $ V$ であるときが特に重要である。 このときは $ V^\perp$ $ V$ 直交補空間と呼ぶことが多い。 これは後で証明するように $ V\oplus V^\perp=\R^n$ が成り立つからであろう。

例えば $ \R^3$ で考えるとき、 $ V$ が直線 ($ 1$ 次元部分空間) のとき $ V^\perp$ は平面で、 $ V$ が平面 ($ 2$ 次元部分空間) のとき $ V^\perp$ は直線になる。 $ V$ が大きいほど $ V^\perp$ が小さいことは既に証明したので、 次の命題が成り立つことは容易に想像できるであろう。

\begin{jproposition}[直交補空間の次元]
$V$\ を $\R^n$\ の線型部分...
...
\begin{displaymath}
\dim V^\perp=n-\dim V.
\end{displaymath}\end{jproposition}

証明には少し準備がいるので後に回す。


\begin{yodan}[昔話]
「中線定理」は日本の中学高校では「\Ruby{...
...った。
解析幾何の威力は大したものである。 \qed
\end{yodan}

この命題から、例えば次の重要な性質が得られる。


\begin{jcorollary}[線型部分空間の直交の直交はもとの空間]
$V$\...
...とき
\begin{displaymath}
(V^\perp)^\perp=V.
\end{displaymath}\end{jcorollary}
すでに見たように、 一般に $ V\subset (V^\perp)^\perp$ であるが、 この場合は $ V$ $ V^\perp$ はともに線型部分空間であり、次元を調べると

$\displaystyle \dim \left((V^\perp)^\perp\right)=n-\dim(V^\perp)=n-(n-\dim V)=\dim V
$

と一致することが分かるので、実は等号が成り立つ。 $ \qedsymbol$


\begin{jproposition}
$V_1$, $V_2$\ を $\R^n$\ の線型部分空間とする...
...$(V_1\cap V_2)^\perp=(V_1^\perp)+(V_2^\perp)$.
\end{enumerate}\end{jproposition}

桂田 祐史
2017-04-30