実は楕円関数の本は、有名な割に入手しにくい 1。 数学としての楕円関数は、 伝統的に関数論のテキストで解説されるのが相場になっているが、 関数論のテキストの多くが、 理工系の基礎科目となっている関数論を主なターゲットにしていて、 その講義範囲は「留数定理の応用」くらいまでで、 それには楕円関数が入っていないためであろう。
竹内 [6] は古くからある非常に有名な本であり、 多くの数学書で推奨されているテキストである。 問題は一つ、 いわゆる版元在庫切れの状態が長く続いていて入手しにくいことである。 パブリック・ドメインにあるため、ネットで入手することが出来る。 (しかし…罰当たりなことをいうようだが、 印刷不鮮明なものをスキャンしたものと、 TEX で組版し直してあるが誤植が多いものの二択で、 少しフラストレーションがたまる。)
竹内 [7] は、関数論のテキストであるが、 下巻はほぼ楕円関数のことが書かれていて、 [6] の簡単化バージョンとみなすことが出来る。 出版社がオンデマンドで入手可能な状態にしていることは大変ありがたい。
安藤 [13] は、 楕円関数の使い方を習得するという観点からは、 現時点の和書のベストかもしれない。 著者自身が研究(整数論)のために楕円関数を学ぶことになり、 そのうち楕円関数を勤務校で講義することになり、 その結果生まれた本だそうである。 教育的配慮が行き届いているとともに、 証明が省略されている箇所も何を読めば良いか言及されていて、 誠実な本と感じられる。
梅村 [12] は、現代の数学者が、 急がない足取りで楕円関数のテキストを書くとこうなる、という本である。 気取ったところがなく、大変気持ちの良いおすすめ本なのだが、 これも版元在庫切れである (どうにかして欲しい…)。 一つ注文をつけると、どのように数値計算するかについても解説が欲しかった。
(上にも述べたように) 伝統的に関数論のテキストには、楕円関数の解説が含まれていることが少なくないが、 新し目のテキストでは (一応例をあげておくと、Ahlfors [9], 高橋 [12], それと杉浦 [11])、 楕円関数とは要するに二重周期を持つ有理型関数である、ということで、 Weierstrass の楕円関数を超特急で説明するものがほとんどのようだ。 それも大変もっともなのだけれど、 何か応用上の理由で楕円関数を勉強しようとしている人にとっては、 今ひとつありがたみにかける感じがする。 そういう状況にある中で、 田村 [12] では2、 Weierstrass の楕円関数の解説に続けて、 Jacobiの楕円関数が関数論の観点から実にきちんと、かつ初等的に説明されている。 こういう本がもっとあって良いと思う。
私がなぜ楕円関数を勉強することになったか、理由を簡単に書いておくと、 一つには、応用数学の中でしばしば現れるため、 そういう議論を理解出来るようになりたいからである。 その方向で、 四ッ谷・村井 [13] という大変素晴らしい本がある。 ただし、この本は実関数としての楕円関数に限定した解説である。
もう一つの理由は、自分の研究と関係が深い等角写像の議論に現れるためである (これについては、この文書においおい書き足していきたい)。
特殊関数については、 ホイッテカーWhitakker-Watson [] は定評がある (筆者はようやく購入しました)。
公式集 (ハンドブック) としては、有名な Abramowitz-Stegun [14] がお勧めである (16, 17章が楕円関数と楕円積分)。 計算の仕方についても詳しく書いてあって、私には非常に面白く感じられる (もっと早く気がつけば良かった)。パブリックドメインにおかれていて、 しおり付きのPDFが入手できる。
その現代化を目指した [15] の出来はどうか。 NIST Digital Library of Mathematical Functions という WWW サイトを見る限り期待できそうである。
楕円関数の物理学への応用については、 戸田 [13] がオススメのテキストである (単振り子、非線型のバネの周期、円輪のポテンシャル、などなど)。 こういう本が遺されたのは素晴らしい。
「近世数学史談」は分かりにくいけれど、 高瀬 [16]はそれを読み解いてくれる本で、 とても面白い。