椎名君の輪講の担当範囲は平方根の近似計算や一般二項定理であった。 それは楽にクリアしたので、何か目標をということになり、 色々考えたが結局は清水君の後をフォローして、 清水君が完遂できなかったことをほぼきれいに解決することができた。
具体的には、 高名な和算家である建部賢弘の「綴術算経」の円周率の加速法計算について、 建部自身は知らなかったテイラー展開 (西洋数学!) を用いることで その原理が「見える」ようになった、というものである。 この話は有名で、 小川 [7], 和田 [15], 森本 [13] などに一応は書いてあるが、 椎名君のレポートは細かいところまで書けていると思う。 なお、 内接正多角形の周長の代わりに外接正多角形の周長を用いて 加速計算した場合の結果とその解析については、 私は直接文献で目にしたことはなくて、ちょっと珍しいかもしれない。 その過程で正接係数などが登場して、 皆川君の卒業研究とオーバーラップしたのは楽しい出会いであった。
細かいことだが、 和田 [15] では苦労して開発した多倍長計算プログラム (ひょっとして一部計算ミスをしている?)、 森本 [13] では UBASIC, 小川 [7] や清水 [9] では Mathematica と、 建部の計算を追試する敷居はやや高かったのだが、 椎名君は (仮称) 十進BASIC で数値計算をしている。 この種の数値実験の敷居が低くなったことを実感する。 もっとも最近の学生を見ていると、 少々プログラミングに対する心理的な障壁があるかもしれない。 これから教員になる人達にはこれくらいできるのが常識と (見栄をはってでも) 言って ほしいものである。
鳴海風, 円周率を計算した男, 新人物往来社 (1998).
綴術算経の電子化 http://fomalhaut.web.infoseek.co.jp/science/tetujyutu.pdf