2 より一般の2階線形常微分方程式の境界値問題のGreen関数

ここに書いてある話は良く知られていることではあるが、 (初学者は探すのが一苦労であろうから) 参考書をあげれば、例えば藤田 [2]。 桂田 [3] というノートがある。 [3] で書いたまとめを引用しておく。
2階線形常微分方程式の境界値問題のまとめ
  • 正値性の仮定 ( $ p(t)\ge\exists\delta>0$)を満たす $ 2$ 階線型 常微分方程式の境界値問題について、 交代定理「可解 $ \Iff$ 一意 $ \Iff$ 一意可解」がなりたつ。
  • 同次境界条件の場合、 一意可解性が成り立つならば、 境界値問題の解は Green 関数を用いて 表わされる。
  • 形式的自己共役な場合には、 一意可解性の簡単で具体的な判定条件がある。 またその場合、Green 関数は対称性を持つ。
  • 形式的自己共役でない場合も、 十分小さい (絶対値の大きな負数) $ \lambda$ に 対して、 $ L_\lambda:=L_0+\lambda$ に対する境界値問題の一意可解性が成り立つ。
また明治大学数学科3年生向けの「常微分方程式1」 (by 森本先生) でも講義される。 以下のまとめかたは、その講義の内容を拝借したものである。

直接のつながりはないが、 初期値問題の Green 関数については、 桂田 [4] を見よ。



$ A\in M(n;\C)$, $ b\in\C^n$ に対して、

$\displaystyle A x=b$ (2)

という線形方程式を考えよう (未知数の個数$ =$方程式の個数,の連立1次方程式)。
$ A^{-1}$ が存在     $ \LongIff$     $ \left(A x=0\quad\Then\quad x=0\right)$
に注意しよう。このとき、任意の $ b$ に対して、 (2) の解は一意的に存在し、それは $ x=A^{-1}b$ で与えられる。


\begin{jtheorem}[同次方程式の解の一意性$\Then$非同次方程式の...
...pmatrix} =\varphi(s)\psi'(s)-\psi(s)\varphi'(s).
\end{displaymath}\end{jtheorem}

$ G$ を境界値問題 (3) の Green関数 (Green function) と呼ぶ。


\begin{jexample}
% latex2html id marker 101
$u''(t)=f(t)$, $u(0)=u(1)=0$ と...
...の解は、
これに $-1$ をかけたものである。 \qed
\end{jexample}

なお、藤田 [2] 定理? では、

$\displaystyle -u'(a)+\sigma_1 u(a)=u'(b)+\sigma_2 u(b)=0
$

という境界条件も扱っている。

任意の $ f$ に対して解が存在することから、 一意性が出るか?

$ p,q,r\in C([a,b];\C)$ かな? $ p(t)\ge\delta>0$ はどこで効くのだろう?

証明. $ \varphi$, $ \psi$ を定める常微分方程式の初期値問題は、 確かに一意可解である。

$ \varphi$, $ \psi$ は1次独立である。実際、 $ c_1\varphi+c_2\psi=0$ とすると、

$\displaystyle v(t):=c_1\varphi(t)=-c_2\psi(t)
$

とおくと、

$\displaystyle L_0[v]=0,\quad v(a)=c_1\varphi(a)=0,\quad v(b)=-c_2\psi(b)=0
$

であるから、一意性の仮定から $ v=0$ が導かれ、

$\displaystyle c_1=c_1\varphi'(a)=v'(a)=0,\quad
c_2=c_2\psi'(b)=-v'(b)=0.
$

ゆえに Wronskian は 0 にならない: $ W(s)\ne 0$ ($ s\in I$).

後のために、 $ \varphi(b)\ne 0$, $ \psi(a)\ne 0$ を示す。 もしも $ \varphi(b)=0$ と仮定すると、 $ \varphi$ $ L_0[\varphi]=0$, $ \varphi(a)=\varphi(b)=0$ を満たすので、 仮定 (同次境界値問題の解の一意性) から、 $ \varphi\equiv0$ が導かれ、 $ \varphi'(a)=1$ と矛盾する。同様にして $ \psi(a)\ne 0$ が得られる。

定数変化法で解を求めよう。

$\displaystyle u(t)=c_1(t)\varphi(t)+c_2(t)\psi(t)
$

とおくと、

$\displaystyle u'(t)=(c_1'\varphi+c_2'\psi)+(c_1\varphi'+c_2\psi').
$

ここで

$\displaystyle c_1'(t)\varphi(t)+c_2'(t)\psi(t)=0$   $\displaystyle \mbox{($t\in I$)}$ (3)

を仮定すると、

$\displaystyle u'(t)=c_1\varphi'+c_2\psi'.
$

ゆえに

$\displaystyle u''(t)=c_1'\varphi'+c_2'\psi'+c_1\varphi''+c_2\psi''.
$

これらから、

$\displaystyle L_0[u]=c_1L_0[\varphi]+c_2L_0[\psi]+p(c_1'\varphi'+c_2'\psi').
$

$ u$$ L_0[u]=f$ の解であるためには

$\displaystyle c_1'\varphi'+c_2'\psi'=\frac{f}{p}$ (4)

であることが必要十分である。 (4), (5) をまとめて

$\displaystyle \begin{pmatrix}
\varphi & \psi\\
\varphi' & \psi'
\end{pmatri...
...'  c_2'
\end{pmatrix} =
\begin{pmatrix}
0  \dfrac{f}{p}
\end{pmatrix}.
$

ゆえに

$\displaystyle \begin{pmatrix}
c_1'  c_2'
\end{pmatrix} =
\frac{1}{W}
\beg...
...begin{pmatrix}
-\dfrac{\psi f}{p W}  \dfrac{\varphi f}{p W}
\end{pmatrix}.
$

これから ($ a$$ b$ のどちらから積分するかは、後を見越した工夫)

$\displaystyle c_1(t)=c_1(b)+\int_b^t\frac{-\psi(s)f(s)}{W(s)p(s)} \D s,\quad c_2(t)=c_2(a)+\int_a^t\frac{\varphi(s)f(s)}{W(s)p(s)} \D s.$ (5)

ゆえに

$\displaystyle u(t)=\left(c_1(b)+\int_t^b\frac{\psi(s)f(s)}{W(s)p(s)} \D s\righ...
...
+\left(c_2(b)+\int_a^t\frac{\varphi(s)f(s)}{W(s)p(s)} \D s\right)
\psi(t).
$

境界条件に代入して ( $ \varphi(a)=\psi(b)=0$ に注意すると)、

$\displaystyle 0=u(a)=c_2(a)\psi(a),\quad 0=u(b)=c_1(b)\varphi(b).$    

$ \psi(a)\ne 0$, $ \varphi(b)\ne 0$ であるから、 $ c_1(b)=c_2(a)=0$. ゆえに

$\displaystyle u(t)=\varphi(t)\int_t^b\frac{\psi(s)f(s)}{W(s)p(s)} \D s
+\psi(t)\int_a^t\frac{\varphi(s)f(s)}{W(s)p(s)} \D s
=\int_a^b G(t,s)f(s) \D s. \qed
$

$ \qedsymbol$

$ p,q,r$ が実数値で、$ q=p'$ である場合、 $ L_0$形式的自己共役であるという 1。 これは

$\displaystyle (L_0[u],v)=(u,L_0[v])
$

となることにちなむ。実際

$\displaystyle L_0[u]=p u''+q u'+r u=p u''+p' u'+r u=(p u')'+r u
$

に注意すると、

$\displaystyle (L_0[u],v)$ $\displaystyle =\int_a^b(p u')'v \Dt+\int_a^b r uv \Dt =\left[p(t) u'(t) v(t)\right]_a^b -\int_a^b(p u')v' \Dt +\int_a^b r u v \Dt$    
  $\displaystyle =-\int_a^b u'(p v')\Dt +\int_a^b r u v \Dt =-\left[u(t)p(t)v'(t)\right]_a^b+\int_a^b u (pv')'\Dt+\int_a^b r u v \Dt$    
  $\displaystyle =\int_a^b u\left[(pv')'+rv\right]\Dt =(u,L_0[v]).$    

この証明を見れば分かるように、 「形式的自己共役」というときは、境界条件も込めて考えるべきものである (そういう意味では、 境界条件に言及しない「$ L_0$ は形式的自己共役」という言い方には問題がある)。


\begin{jtheorem}[定数項の係数$\le0$である形式的自己共役な境界...
...u(b)=0
\end{displaymath}の解は $u\equiv 0$ のみである。
\end{jtheorem}

証明. $ u_1$, $ u_2$ が共に解とする。 $ u:=u_1-u_2$ とおく。

$\displaystyle L_0[u]=0,\quad u(a)=u(b)=0
$

が成り立つ。 $ L_0[u]$$ u$ をかけて部分積分すると

$\displaystyle 0=(L_0[u],u)$ $\displaystyle =\int_a^b (p u')' u \D t+\int_a^b r u^2 \Dt =\left[p u' u\right]_a^b-\int_a^b p u' u' \Dt+\int_a^b r u^2 \Dt$    
  $\displaystyle =-\int_a^b p(u')^2 \Dt+\int_a^b r u^2 \Dt \le-\delta\int_a^b (u')^2 \Dt.$    

移項して $ \delta$ で割って

$\displaystyle \int_a^b (u')^2 \Dt\le 0.
$

これから $ u'= 0$. $ u$ は定数だが、 $ u(a)=u(b)=0$ なので実は $ u=0$. ゆえに $ u_1=u_2$. $ \qedsymbol$ $ \qedsymbol$


\begin{jtheorem}
定数項の係数が $\le 0$ であるような形式的自...
...の境界値問題に対して、
Green 関数が存在する。
\end{jtheorem}

証明. 上の二つの定理の系である。 $ \qedsymbol$ $ \qedsymbol$

桂田 祐史