next up previous
Next: 12.3 横山和正「常微分作用素の固有値問題の数値解析」 Up: 12 2003年度卒研 Previous: 12.1 清水康生「πの数値解析」


12.2 松山周五郎「音のFourier解析」

(ここも脱線多し。)

今でも Fourier 解析は、Fourier 以来の伝統に従い、 微分方程式を扱うためのツールと捕らえるのが、数学村での常識であろう。 しかし世の中での使われ方を見ると、 むしろ音声・画像などのデータ解析ツールとしての重要性の方が大きいと思われる。

オープンリールのテープレコーダーをオモチャにして育ち、 買いたい家電製品はオーディオ機器であるというオーディオ・マニアが 珍しくなかった時代22を中高生として過ごした筆者にとって、 音の解析は「気になる」ことであった。

ちょうどパソコンをいじり出したころに W. R. ベネット, 『パソコンプログラム     理科系のための問題演習23』 (現代数学社, 1983) という本が出て、 そのなかにある音の Fourier 解析の部分は非常に楽しく遊んだ記憶がある。 著者と協力者が採取した各種楽器の PCM データが、 BASIC プログラムのデータ文に含まれているが、 これをしこしことタイプして、 TURBO Pascal のプログラムで離散 Fourier 変換していた。

就職して、 ワークステーションにマイクがついて、 音を (かなり低いサンプリング・レートで) PCM 録音できるようになったときには、 「面白い実験ができそう」と思ったが、 雑事に忙殺されて、実際に手を出すことはなかった。

さて、それで 2003 年。 固有値問題がらみで卒研のネタを探していたとき、ふと気が付いた。 周囲にころがっている Windows パソコンはマイクをつなぐだけで PCM 録音できる。 性能向上のおかげでサンプリング・レートも十分である。 高速に離散 Fourier 変換するツールもよりどりみどり。 調べてみたら PC 上の Mathematica では実に簡単に解析することが可能であった。

松山君には友達コネクションを使って、 生楽器の音を採取して来てもらった。 生データから周期を決定したり (こういうのって数学の教科書に書いていない)、 倍音成分は本当に基音の整数倍だろうか (「常識」なんだけど、 完璧に一様な1次元振動というわけではないから、 本当は調べないと分からない)、とか。 素朴な、だが結果の待ち遠しい、面白い実験をしてもらった。 それから、実は念願だった、 べネットの本に載っていたデータから実際に音を鳴らすということも出来た (ちなみに今回はタイピングではなく、OCR を使いましたとさ)。

少々教員(つまり私)の趣味を押し付けた嫌いがなくもないが、 取り上げる価値のあるテーマだったと思う (誰か後を継がないかな…次は太鼓だ)。 初めての試みで色々苦労もあったと思うが、 楽しそうに取り組んでくれたのは嬉しい。


next up previous
Next: 12.3 横山和正「常微分作用素の固有値問題の数値解析」 Up: 12 2003年度卒研 Previous: 12.1 清水康生「πの数値解析」
桂田 祐史
2015-12-24